福岡家庭裁判所 昭和41年(家)650号 審判 1966年9月29日
申立人 山田春美(仮名)
相手方 川田ミサエ(仮名) 外三名
主文
本件申立を却下する。
理由
申立代理人は、亡川田邦雄の遺産につき分割を求める旨申立て、申立の事由として、申立人は被相続人川田邦雄の非嫡出子であり、相手方川田ミサエは被相続人の妻、その余の相手方は嫡出子であるところ、右川田邦雄は昭和四〇年一月一四日福岡市○○にて交通事故により死亡したので、申立人、相手方らはいずれも被相続人の死亡によりその相続人となった。
申立人は相手方に対し、遺産分割協議を求めたが、相手方はこれに応じないので、適正な遺産分割の調停を求めると述べた。
一、筆頭者山田園枝、同川田邦雄の戸籍謄本、相手方川田ミサエに対する審問の結果によると、被相続人川田邦雄は昭和四〇年一月一四日福岡市○○において交通事故のため死亡し、その相続人および各人の法定相続分は下記のとおりであることが認められる。
被相続人との続柄 相続分
(1) 相手方川田ミサエ 妻 三分の一
(2) 相手方永山真由義 長女 二一分の四
(3) 相手方川田広昭 長男 二一分の四
(4) 相手方川田リカ 二女 二一分の四
(5) 申立人 非嫡出子 二一分の二
二、しかしながら申立人、相手方川田ミサエ、相手方川田広昭、相手方川田リカ代理人永山容二各審問の結果、当庁調査官の調査報告書をあわせ考えると、被相続人の遺産として考えられるものは、後記同人の事故死による政府に対する補償金請求権のみしかなく、右請求権も遺産分割の対象とならないものというべきである。すなわち、被相続人死亡により相手方山田ミサエは国家公務員共済組合から死亡退職金を受領しているが、右退職金債権は同組合法に基づき第一順位者として配偶者たる同人に与えられるものであるから遺産の対象とならないし、又郵便局、日本生命、住友生命各相互会社に相続人を被保険者として各保険契約がなされ、被相続人の死後支払われているが、右保険契約には各受取人が指定されており、従って右保険金債権も遺産とならない。更に被相続人の遺産として動産が絶無ではないが、特にみるべきものはなく、これらを遺産分割の対象から除外することについては当事者双方異議がないのでこれを遺産から除くこととすると、他に補償金を除き被相続人の遺産を認め得る証拠はない。
ところで前掲証拠によれば、被相続人はひき逃げによる交通事故で死亡し、加害自動車の保有者が不明なため自動車損害賠償補償法第七二条により政府に対し補償金を有していたものと認められるところ、右補償金は損害賠償の性格をもつものであるから同人の死亡により申立人らと相手方は相続人として右請求権を取得したものと考えるべきである。そうして相手方川田ミサエはすでに政府から補償金一〇〇万円(受領額はこれを下廻る)を遺族として受領していることが明らかである。しかしながら右債権は可分債権であるから被相続人の死亡により遺産分割をまつまでもなく、当然に前記相続分の割合で分割されたものというべきであり、従って遺産分割の対象とならないというべきである。(右補償金受領前であれば相続分の割合による金員の請求を政府になし得るし、又本件のようにすでに相続人の一人が受領した後であれば、不当利得にもとづく請求として民事上の手続によるべきものと思われる。)
よって本件申立は遺産分割の対象となり得る遺産を認め得ないので、その余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 丹宗朝子)